株式会社フューチャーショップ
安原 貴之 氏

2022年7月勉強会にて「自社ECで成果を出す店舗がやっていること・考えていること」と題して、株式会社フューチャーショップ 安原氏に、今回はebsとして単独インタビューさせていただきました。
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左/講師: 株式会社フューチャーショップ 安原 貴之氏

―「離脱顧客は追いかけない」がCRMの定石と思っています。コロナ禍で売上が下がったことで離脱顧客に戻って来てもらおうと考えています。優良顧客と育成顧客に対する施策をした上で、 新規顧客の獲得と離脱顧客のフォローをするならどちらを優先すべきでしょうか?
安原 貴之氏:
購入回数と顧客数をグラフで表現すると、ほぼ全ての店舗(売上の高い店舗も売上の低い店舗も)で添付のような「負の二項分布」のグラフになります。



これが何を表しているかと言うと、売上の拡大している店舗は常に多くのライトユーザー(初回購入顧客や2回目購入顧客)を取り込みながら売上を拡大させているということに他なりません。
一方で、こちらもほぼ全ての店舗に言えることですが、F2転換以降は、何もしなくてもF3→F4→F5と転換率は自動的に上がっていくため、F2転換のハードルを超えるとF3以降の顧客は自動的に拡大していくことになります。
ただし、F3→F4→F5と購入回数を増やす毎にどうしても一定数の離反は起きてしまうため、F5時点になると残っている顧客はとても少なくなってしまいます。ただでさえ数の少ない優良顧客の中において、さらにそこから離反されてしまった顧客となると、対象セグメントの顧客数はかなり限られた数になってしまうかと思います。
その限られたセグメントに対して離反顧客のフォロー施策を行ったとしても、売上全体に与える影響はかなり限定的になってしまうことは避けられません。
多くの競合がひしめく中、新規顧客の獲得は年々難しくなってきていることも事実ではありますが、今までアプローチできていなかった未購入顧客層に対して、これまで実施していなかった訴求方法でアプローチしていく方が売上拡大という観点においては効率的だと考えています。
―取り扱う商材によって戦略に違いはあると思いますが、リアル店舗のある企業の場合、全社的にお客様を串刺しにして施策を考えるか、各店舗ごとに施策を考えるか、全体最適はどちらだと お考えでしょうか?
安原 貴之氏:
まずは実店舗(リアル)とEC(デジタル)を通じて顧客接点を考える必要があると思います。これは、企業側の都合ではなく、既に顧客の行動自体がリアルとデジタルに分けられていないからです。
企業側は顧客行動に合わせた接点でのコミュニケーションが必要となるので、リアルとデジタルを通じたコミュニケーション施策を考えるべきです。
そのためには顧客情報は実店舗・ECを含め全社で統合し、把握することが必要です。
そのうえで、実店舗の強みである「接客」と、ECの強みである「情報発信」を相互に活かすことが重要です。
各店舗ごとの施策も考える必要はありますが、来店されても購入されなかったお客さまにECをご案内したり、LINEやSNSを使ってその後のコミュニケーション手段を提示することで会社全体としての機会損失を防ぎ、よりファンになっていただくことを考えていく必要があります。


―ファンづくりの観点から見ると、LTVや来店頻度など何を基準にして捨てる(施策を打たない、ターゲットにしない)お客様を決めるのが基本だとお考えでしょうか?
安原 貴之氏:
ご質問の内容は、ファン化をどういったKPIで測るべきかという質問と同義かと思いますが、少なくともLTVや来店頻度ではファンなのかどうかは計測できないと考えています。
同様の話が出た際には、いつもコンビニの例でご説明させていただくことが多いのですが、ある人が駅前にコンビニがあっていつもそこで購入していたとします。この人はいつも購入しているので、LTVも来店頻度も高い状況かと思います。
しかしある時、自分の家の前にコンビニができたことで、駅前のコンビニで購入することはなくなってしまいました。
果たしてこの人は駅前のコンビニのファンだったと言えるのでしょうか?
答えは言うまでもないと思いますが、ファン化をLTVや来店頻度だけで測ってしまうとこういったことが往々にして起こり得ます。
これに対する一つの解が、西口一希氏の提唱する「9セグ分析」(添付資料)になるかと思います。



ご存知の方も多いかと思いますが、これは顧客のロイヤル化の観点に加え、顧客の「次回購入意向」の2軸で顧客をセグメントしています。
LTVや来店頻度がいかに高くても「次回も同じブランドで購入しない」という顧客についてはセグメントを分けて施策を実施していくべきかと思います。
また「ターゲットにしない(捨てる)」という考え方については賛同できかねます。
まずは未購入顧客も含めた全ての顧客についてセグメントを行い、その中から「売上を向上させる」あるいは「ファン化を促す」ために最も効率的な施策から優先順位をつけて実施していくという流れが理想だと考えています。
―オンラインショップで考えた場合、全顧客の中で優良顧客が占める割合は、何割程度を目指すのが理想的と言えるでしょうか?育成顧客、休眠顧客などの割合も併せてご教授願います。
安原 貴之氏:
店舗によってビジョン(どこを目指しているのか)が異なるため、顧客構成についても一概にこれが良いというのを決めるのは難しいかと思います。
先のコンビニの例においても「たとえファンでなかったとしても、とにかくLTVや来店頻度が高ければそれで良い」というのも、必ずしも間違った戦略ではないと思いますし、一つの考え方だと思います。
特に最近の研究では「顧客が多くなればロイヤルティは高まるが、ロイヤルティを高めても顧客数やシェアは増えない」(ダブルジョパディーの法則)ということも言われているようですので、売上の拡大に向けては新規顧客の獲得を優先させることについても理にかなっているのかもしれません。
ただ一方で新規顧客の獲得を優先したとしても、ファン化や優良顧客化の施策は行わなくても良いということにはならないかとは思いますので、そのEC店舗において今本当に必要な施策は何なのかということを正確に見極めた上で、バランスよく施策を実施していくことが必要だと考えています。

○講演タイトル
「自社ECで成果を出す店舗がやっていること・考えていること」

○講師プロフィール
株式会社フューチャーショップ
執行役員 セールス&マーケティング部 
安原 貴之氏




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